海外と日本の建物・デザイン・空間
世界を旅する醍醐味として、その土地ならではの美しい景色や文化、風習、食、人々などに触れられることに加え、歴史的価値が高く壮大な建造物を目の当たりにできることが挙げられるのではないでしょうか。中でもイタリアの建造物は歴史的な価値、数共に世界でトップと言われています。
そこで、今回はイタリアを代表する建築物を紹介するとともに、イタリア人デザイナーFRANCESCO RISTORI氏にインタビュー。グローバルな見地から日本と海外の建築やデザインを考えます。
■#1.パンテオン(イタリア・ローマ)
芸術や建築など多方面で才能を発揮したミケランジェロが、『天使の設計』と賞賛した古代ローマ建築の神殿「パンテオン」はローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの腹心アグリッパが紀元前25年に建設。80年に火災で焼失しましたがドミティアヌス帝とトラヤヌス帝により再建。118年から125年にかけハドリアヌス帝はパンテオンを空間・秩序・配置・光を追求した古典建築へと変貌させました。ドームの高さとロトンダ(円形の建物)の直径が完全な球の直径に一寸の狂いなく一致するのは偶然ではないでしょう。
その、パンテオンの円形構成は、天界と太陽に着想を得た設計でそれまでのギリシャやローマの寺院建築の主流であった方形造りの空間とは異なり高くなるにつれ小さくなる格間(ごうま)や壁は徐々に薄くすることでドームの重みによる下方への押圧力を減らし、物理的なストレスを基礎へ逃がしているという。
パンテオンの唯一の光源は、ドーム天井の「偉大な目」とも言われる円頂窓のみで、正午頃に日光が差し込むと、大理石を磨き幾何学模様に仕上げられた壮大な空間が美しく光り輝く。栄華を誇ったローマの面影を現代(いま)に伝え続けるパンテオンは、まさに歴史を感じる建築と言えるでしょう。
■フランチェスコ流!これを知ると「パンテオン」が100倍面白くなる!!
イタリアの記念碑には真実に基づいた神話があります。「パンテオン」の場合はローマの建築を讃美する神話として残っています。
「パンテオン」が凄い建築と言われることの一つに、構造上の過負荷重を避ける為、普通ならあるはずのドームのキーストーンを設置していないことがあげられます。それにより空を見渡せるような大きな穴が開いています。多くの方は「雨が降ると浸水しないの?!」と思われるかと思います。
実際、土砂降りの際には雨が降り込んでしまいますが、煙突効果により降り込んできた雨が暖かい風により噴霧(ふんむ)されることで、内側が浸水した事はないと言われています。
それはもちろん、ローマ建築の優れた設計技術と煙突効果によるものですが、神話によって「パンテオンは雨でも濡れない。ローマ建築の技術は素晴らしいものである!」と広めたことも関わっています。
■#2.サン・ミニアート・アル・モンテ教会(イタリア・フィレンツェ)
1018年にアリブランド司教の指示により建設が始まる。こちらの教会はフィレンツェで初めてキリスト教殉教者に献納されたもの。殉教者は斬首されると首を脇に抱えふらつく足どりで丘に登り、自らの墓所となるこの地に来たと伝えられる。
ファサードは白を備えたカラーラ産の大理石が緑色の蛇紋石を引き立て美しさに拍車をかけている。1階には古典様式の神殿を思わせる意匠、エディクラ(石造または 木造 の飾壇)窓の頂部には13世紀のモザイク画があり、キリストが聖人を脇に伴い王座似つく図、ファサード最頂部には毛織物業ギルドを象徴する青銅の鷹が置かれている。内部の主祭壇には13世紀のモザイク画がきらめき、主祭壇に続く階段に挟まれた部分にはルネサンス期に加えられたミケロッツォによる十字架の礼拝堂がある。
トスカーナ地方ロマネスク建築の優れた建築の一つであり内部、外部ともに後のルネサンス建築に大きな影響を与えることとなった貴重な歴史的建築だと言えるでしょう。
■フランチェスコ流!
これを知ると「サン・ミニアート・アル・モンテ教会」が100倍面白くなる!!
「フィレンツェで最も美しい橋は?」と聞かれたら、多くの人が「ヴェッキオ橋(PonteVecchio)」と答えるでしょう。しかしながら個人的には、隣接している「サンタ・トリニタ橋(Holy Trinity Bridge)」がフィレンツェで最も美しい橋と言わせて頂きます。
その理由は至って単純でヴェッキオ橋からは美しいヴェッキオ橋の全貌が見えないが、サンタ・トリニタ橋に立ってみるとヴェッキオ橋のその壮大なすべての美しさが目の前に現れるから。よって、サンタ・トリニタ橋はフィレンツェで最も美しい橋と言えます。
同様に「サン・ミニアート・アル・モンテ教会」はフィレンツェ一美しい教会と言われることはありません。ですがファサードが建つ丘の頂上からフィレンツェの全ての教会を見ることができます。それこそが、「サン・ミニアート・アル・モンテ教会」がフィレンツェで最も美しい教会だと言える理由です。
©MARIO RISTORI
■デザイナー フランチェスコに聞く、イタリアと日本の建築・デザイン
●イタリアからの影響、逆に日本が海外に与えた影響について
イタリアと日本の貿易は1866年より始まったが、目に見える形での影響が出るまで数十年を要した。
1904年にミラノのスカラ座で「蝶々夫人」が初演された。この物語の舞台が長崎となっているのは、イタリアと日本が互いに深く興味を持っていた証拠だと考えられる。そこから関係はより強化され、長崎の街並みにも影響をもたらしたと言われている。反対にイタリアでは19世紀、詩人のガブリエーレ・ダンヌンツィオが日本の俳句の魅力に憧れ、イタリア版の俳句を作成。イタリアと日本には文化においても歴史的結びつきが強いと言える。
●イタリアと日本のデザイン現場、制作について
先ず、制作プロセスが全く違うと感じる。イタリアでは腕のある職人が建築主になるが、日本では職人が建築主に従う。あくまでもこれは私の捉え方だが、基本的にイタリアでは現場で考えながら創り出す事が多いが日本では事前の準備や詳細な検証が優先される。イタリアと日本の現場や制作において「歴史的に受け継がれてきた伝統的な職人技や製造方法が根強く残っていること」は共通点と言える。
●イタリアと日本のデザインについて
イタリア、日本とも「第26回国連気候変動枠組条約締約国会議=COP26」に参加。今後、よりクリーンでグリーンな未来を目指す事が期待されている。建築においてもカーボンゼロとエネルギーの自律性が大きな目的として設定、導入されるのではないかと思う。
既にイタリア北部ではヨーロッパ北部の建築技術の影響により、エネルギーの自律可能な建築物が増えている。一方、日本では土地のコストや耐震性基準の影響でエネルギー自立型建築の開発が遅れる可能性は示唆されている。それでも一歩ずつ着実に前進することを期待している。
■Francesco Ristori/フランチェスコ リストリ
国際デザイン事業本部 オフィス事業部 アーキテクト・デザイナー
フィレンツェ大学にて建築を学ぶ。卒業後はイタリアで住宅やリテールの設計、歴史的建造物の修復に数多く携わる。2014年の来日後はMetLife東京ガーデンテラス・オリナスタワー、HOTEL ARU KYOTO、Kosugi 3rd Avenue武蔵小杉など日本国内やアジアのオフィス、ホスピタリティー、レジデンシャル、商業施設、百貨店など幅広くプロジェクトに参加。
■出典元
https://nigensha.hondana.jp/book/b559274.html
https://xknowledge-books.jp/book/9784767819624/