吉林省内の延边自治州、延吉市にある高級百貨店「延吉百貨大楼(Yanji Department Store)」は、エリアトップの収益を誇り、延吉市を代表する百貨店です。
そんな延吉百貨大楼がフロアごとのリノベーションプロジェクトをスタート。昨年の6Fキッズフロアに続き、4FメンズフロアにおいてもGARDEは基本計画、基本設計、実施設計、設計監修、照明設計を担当させていただきました。
6Fキッズフロアの改装記事はこちら
改装の全体感
改装前の館内の全体像は、動線が単一的かつフロアの空間意匠も統一的。テナントや商品がきちんと整理されていると感じる一方で、商業施設=楽しいものと捉え、もう少し刺激や変化を加える必要がありました。
そこで、空間意匠の大きな方向性として「フロアごとに、テナントに沿った特徴を創出」、「動線に変化を持たせ楽しく回遊」、「機能やアイキャッチな箇所を増やし、見どころ豊富な売場を展開」のように設定し、各フロアの改装に繋げていきました。
デザインコンセプト&キーワード
延吉百貨大楼4Fメンズフロアの改装コンセプトは“NOBLE MODERN MEN’S LOUNGE” ∼シンプルで洗練された落ち着きのあるラウンジ空間∼。
あまりカラーを多用せず、高級感と質感を上げたいというクライアントの希望により以下のキーワードで構成しました。
BEIGE TONE
グレーベージュを基調とした明るく高級感を感じる空間を目指し構成。
同系色でまとまったシンプル空間は単調な印象を与えてしまう点を考慮し、
LINE
ラインデザインを用いて空間全体にダイナミックな動き・変化を加え、
GEOMETRY
空間のアクセントとして、幾何学模様デザインを随所にあしらい立体感・変化を作る。
この3つのキーワードによって、デザイン性ある上質な空間の演出に成功しました。
テナントのグレードアップとフロアの開放感をデザインで両立
売場は大きく分けて、壁面店舗と中島店舗の2つ。壁面店舗は面積が大きく取れ、壁面も多い為、有力なブランドが入る構図が一般的です。一方で中島区画は、商品展開量が限られ壁面も少ないため、力の及ばないテナントが入るもの、という先入観があることも事実。この点を払拭し、中島区画にも優良店舗を入れる事で、壁側・中島との格差を減らし、フロア全体のテナントグレードアップを図りました。その為に、中島区画の魅力創出として、一点は動線的な有利性、もう一点は中島区画の意匠性の向上を目指しました。
上記の取り組みにより、中島区画にも有力なブランドのリーシングが決まったものの、テナントのレイアウトに対する要求はフロア設計の機能を崩す恐れのあるものでした。
テナント内に壁を作ることで影が生まれ、壁面店舗を隠してしまうことを防ぐため、中島区画は見通し度の高い設計規制を設けています。設計監修として、開業ギリギリまで粘り強く交渉を続けることで、フロア全体が閉鎖的になることを防ぎ、テナントのグレードアップとフロアの開放感の両者を叶えることができました。
改装の最難関、照明計画
照明は器具一つで空間の雰囲気・印象を大きく変化させる重要な要素の一つです。
昨年手掛けた6Fキッズフロアの改装では、想定よりもフロアが暗く、特に中島区画のテナントは照明を追加しないと照度が不足するという問題が発生。
中国では施工会社の予算の関係で、常に照明器具の置き換えが生じ、コロナ禍も相まって希望の器具の調達が更に困難となります。
前回の課題を確認・クリアしながら、求める照度・効果に向けて設計しつつ、現場で起こるリスクも考慮しながら進めることで、照度の課題を大幅に改善することができました。
メンズフロア改装までの道のり
百貨店のメンズフロアは、ウィメンズフロアに比べてケーススタディとなる施設や空間が少ないため、どのような空間が改装後のフロアとしてふさわしいのか、イメージ共有の段階でクライアントと幾度となくコミュニケーションを取り合いました。
たとえば、天井や床の色味のバランス感やデザインの複雑さの度合いについての議論では、動線的・視覚的にフロアの端々まで来館者が回遊する効果を持たせるため、天井・床にダイナミックな斜めライン意匠を用いるなど、手探り状態の中でも議論を続け、着地点を見出してきました。これを繰り返し、理想通りの空間へ1歩ずつ近づけることができたと実感しています。
天井は白を用いてシンプルに、床は3色を貼り分け。上下に同じ角度のラインを施すことで空間の統一感をも生み出す。
物件情報
名称:延吉百貨大楼4Fリノベーション(メンズフロア)
正式開業:2023年5月31日
所在地:吉林省延吉市光明街608号
設計対象面積:7600㎡
次回は同物件の2Fウィメンズフロアの改装秘話に迫ります。